自然との向き合い

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カキ、クリともに元気だ。いや、元気度がますます向上して、いよいよ「しつけ」どころでなくなってきた。それでも、カキ、クリそれぞれに性格や個性が異なるため、差別待遇とならざるを得ない。わがままであっても聞き分けのいい姉犬カキは、家の囲いのなかでは繋がず自由にさせている。門があいたスキに外に出ることはあっても、すぐに戻ってくるので心配はない。一方の弟犬クリは、離そうものなら、塀を飛び越し自由外出でしばらくは帰ってこない。しかし、うれしそうに外遊に出かける後ろ姿は、「“男一匹”、世界探索を楽しまずしてどうする!」とはっきり主張している。オスとしての本能か。
しかし、ここは人間社会、自由放任でいかないところが難しい。当然のことながら、外遊の途中では散歩中のご同類や、家でつながれ大人しくしている犬君たちに出会い、遊び半分でチョッカイをかけることとなる。「親のひいき目」としては、クリはカラダが大きくて荒々しさがあるものの、決してどう猛ではない。素っ頓狂な顔をしていて、憎めないヤツである。けれども、他人の目からすると、「こんな犬を放し飼いにして!」ということになる。恋のシーズンになると、子孫を増やしてまわることにもなるだろう。
そこで、カミさんと相談し、クリにある処置を施すことにした。人間社会では「自然」は自然のままではありえない。手入れをしながら、人間の都合に合わせて手なずけていかざるを得ない。数日悩んだ末、町内の獣医のもとに連れてゆくことになったが、その役を担ったカミさんによると、暴れ騒ぐことなく、従容としてその処置を受け入れたという。
戻ってきたクリの様子はというと、初日・二日目ははっきりとした変化があった。一言で言えば大人しく、クリのからかいにも乗ることなく知らんぷりの状態であった。しかし、三日目になると、以前のやんちゃぶりが戻ってきているではないか。ジャンプしての親愛表現も元通りだ。「おいおいどうした?」という大人しさは、ただ単に手術後の影響だったのであろう。でも、一つだけ気になるのは、カキとの噛みあいながらのプロレスごっこにまったく興味を示さなくなったことだ。カキのほうも拍子抜けしたような感じである。闘争心は「自然」の中心部分に埋め込まれているということか。
気になることがも一つあった。「泳ぐ犬」であることを捨てたかどうかだ。これについては、クリの傷が癒えてから確かめることにしよう。