浜辺のカラス

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久しぶりの〔カキとクリ〕である。きのは海岸清掃に連れ出し、岩がごつごつした黒磯海岸を遊ばせたので、きょうは気分をかえ海水浴場に向かった。
いつものように、海水浴場の手前までは二匹ともつないでいくことにした。途中で他の犬や人様に向かっていくことのないようにとの配慮である。憶病者のカキは離していても余り心配することはないけれど、クリは図体が大きくなり、吠える声もオスらしいドスのきいたものとなったので、気が抜けなくなってきた。
浜辺に着き、ロープから放してやると、二匹ともいつものように一目散に駆け出した。久しぶりの浜遊びということもあって、とりわけカキは勢いのいいことこの上ない。そして、丸太のように太り「イノシシのようなヤツ」(我が家では最近、こう呼んでいる)となったクリも敗けてはいない。
しかし、きょうはふだんと様子が異なっていた。カキとクリの走りが遊びやストレス発散ではなく、明確な目的物を設定していることがわかる。一群のカラスである。20匹はくだらない数であった。カラスは二匹に追い払われ散らばっては、またしつこく集まってくる。その光景をしばらく遠目に眺めた後、接近してみると、そこには一つの物体がごろんとあった。子イノシシの死体である。死んでからまだ一日とたっていないであろうことがはっきりとわかる。腹にはカラスが嘴でつついた跡があったが、よく見るとそのなかに、銃弾で抜き打たれた小さく丸い穴があいていた。子イノシシが横たわっているのは浪打際のすぐそばである。猟師に撃たれ、手負いとして海に向かって逃げ、泳ぎだしたものの、力つき果て、波に運ばれてきたものであろう。クリとほぼ同じ大きさの、まだほんの子どもである。
散歩の途中、暗闇で、以前にも子イノシシに出会ったことがある。里山の生態系が変って、イノシシにとっても生きづらい環境となっているのであろう。我が家の勝手気ままな「イノシシのようなヤツ」とは大違いである。生物界の厳しさを思わずにはおれなかった。
そうしたことはお構いなしに、くだんの二匹はというと、浜辺のカラスをしばらく追い掛け回し、飽きてしまった後は、体温が上がってきたこともあってか、そろって海に入っていった。クリは相変わらず、繰り返し波をかぶって気持ちよさそうであったが、きょうはカキのほうも波を思いきり受けてていた。水温は相当に下がっているに違いない。このままだとこの二匹、「寒中水泳犬コンビ」として越冬しそうである。