クローズド化する企業の知財戦略

一昨日(8日)の日経に「理工系学会の会員数減少 ─産学交流 縮小の懸念も」と題する記事が載っている。大学のいわば新規事業である産学連携や技術移転に携わってきた者として、気になる記事だ。
技術流出を警戒する企業が研究者の管理を強めており、公開の場である学会への参加に消極的になっているためであるというのである。オープンな場である学会は、当然のことながら情報の公開・共有を前提にいろんな人間が集まり、交流し、議論を行う。そこでこれまでも、最先端の研究など、もれるとヤバい研究についての発表は、特許得出願済みでないと学会発表をしないなどの規則遵守を社員に求める企業が多かった。
しかし、最近では研究開発をめぐる競争が国境を超えて激化しており、発明者・出願人の権利保護と交換に情報を公開する特許制度そのものも企業にってみれば「もろ刃の刃」というより、ノウハウが漏れる危険性をもつものとして見なされるようになってきたようだ。
上の記事によると、住友電工では「製造技術などノウハウは特許出願も対外発表もせず、社内保持に努めている」というし、シャープの液晶テレビを生産する亀山工場も工場そのものを非公開(見学お断り)にし、生産技術は特許出願しない戦略であるという。企業の知財戦略、特許戦略はここまで変化してきている。
こうした変化は学会のありようのみならず、大学の産学連携のありかたにも影響をおよぼさずにはおかない。じつは、現在の日本の大学の知財戦略は、20数年前のアメリカの大学におけるバイオ関連特許におけるヒット(というよりホームラン)の事例をモデルに、「大学も企業と同様の特許戦略をもって、大いに稼ぐべきである」とする考えのもとに、この数年、TLO(技術移転機関)をはじめとする環境整備がなされ、具体的な取り組みが重ねられてきた。しかし、本家であるアメリカの大学では、産学連携の基本戦略が大きく見直されている。一言で言えば、クローズドな特許戦略からオープンな「知の拠点」戦略である。MITが講義の内容をすべてインターネットで公開するようになったというのもその一つの現れだ。
大手企業がクローズド戦略をすすめているなかで、社会の公器(開かれたインフラ)、文明の配電盤である大学は徹底したオープン戦略を展開していくべきではないだろうか。それが、長期的視点に立った、社会におけるバランス感覚というものだと思う。