ALSと戦われた山口進一さんに教えて頂いたこと

昨日、加勢君を送った後、山口進一さんの訃報が入った。悲しい知らせが重なるなかで、感傷的な思いを抱きつつ、今日は13:30から赤間での葬儀に参列した。
山口さんは、1996年に、運動神経が侵されて、次第に全身が動かなる難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され、10年間の闘病の末に一昨日ご逝去された。ALSは、運動能力が限りなくゼロに近くなるなかで、最終的にはまばたきすらもできなくなり、意思伝達の手段さえも奪われるという恐ろしい病いである。
コンピューター技術者であった山口さんは、不自由な手でも操作できる特別なマウスを使いながら、コンピューターをフルに活用、各地で講演を続けられ、「生きること」の素晴らしさを訴えられた。また、入力に常人の数倍の労力をかけながら、病床からンターネットを通じて、ALS患者の現状を発信され、全国の患者さんを励ましてこられた。「パソコンこそALS患者の意思を伝える道具」というのが口グセであったという。
山口さんには、2001年7月に、大学の理工系を中心とするオムニバス講義で「企業家・技術者に望むこと -難病ALS患者として」と題して講義をして頂いた。講義では、車いすで酸素吸引をうけながら(それでもマウスを足で操作されていた)、エンジニアや研究者を志す学生たちに、「ALSのような難病の患者の、コミュニケーションや意思伝達という基本的欲求を支える技術の研究開発に是非取り組んで欲しい」とういう訴えをされ、学生たちに大きな感銘を与えたことを今でもはっきりと覚えている。意思表明の自由さえも奪う難病が存在することを知り、そして、技術のもっとも切実なユーザーの声に直接ふれたことで、学生のみならず私自身も、科学技術が誰のために、そしてまた、何のために開発・応用されるべきかということについて、頭をぶん殴られる思いであった。
講義でキャンパスに来て頂いてからほぼ5年が経過するが、この間には、脳科学やロボット工学等の急速な展開によって、ALS患者や筋ジストロフィー患者のように運動能力がほとんどなくなった人でも、人間の脳の信号をコンピューターに直接つなぐことで、思いどおりに義手を動かし、マウスを操作して意思表明が可能となる、「脳・コンピューター・インターフェース」の研究が急速に進んでいる。
4月24日には、NHKで「立花隆が探る サイボーグの衝撃」が放送され、「脳・コンピューター・インターフェース」が実用段階に入りつつあることを伝えていた。もし、山口さんがその番組を見ておられたら、「ALS患者への福音」として欣喜雀躍されたに違いない。
http://www.nhk.or.jp/omoban/k/0424_2.html
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/sci/project/cyborg/


山口さんのホームページのタイトルは、「今を生きる(“ 而今 ”)」である。山口さんには、どんな逆境にあっても「今」を生きるしかないことを、その生き方を通して教えて頂いた。心からご冥福をお祈りいたします。
http://www.ne.jp/asahi/laconic/ikiru/