演出家・山田恵理香の世界

冷泉荘の野田恒雄君・山崎マユミさんの誘いで、シェークスピア原作「テンペスト」に挑む舞台「ARASHI」を“ゆめアール大橋”に観に行った。冷泉荘オープンの際に、カフェを舞台に、異化効果たっぷりで、とてもエキサイティングな演劇を披露してくれた空間再生事業劇団GIGA・山田恵理香さんの演出である。
今回作品の印象としては、「シャープな演出で役者のチカラをうまく引き出したパワフルなお芝居」とういうものであった。振り付け・音楽・美術も時間をかけて練り込まれたものであることが、すぐに了解される緊張感に充ちた舞台であった。おそらく、評論家はテンションの高い演劇空間の出来に相当に高い評点を付けるのであろう。
しかしあえて付け加えると、事前に原作を読んでおかなったせいもあるが、お芝居全体の流れというか構想に今ひとつ付いていけない部分があった。シリアスな主題でも「楽しめる」お芝居は十分可能だと思うけれど、残念ながら、今回はシリアスで前衛的な舞台表現の先に、観客とのインタラクションの部分がもう少し欲しかったように思う。
山田恵理香さんは、昨年、富山県利賀村での「利賀演出家コンクール」優秀演出家賞を受賞し、日本演劇界の若手ホープという期待が寄せられているという。そのプレッシャーや、(財)福岡市文化芸術振興財団プロデュースという要素もどこかで効いていたのかもしれない。はやる気持ちはわかるけれど、九州の劇団であれば、まずは九州の人間が楽しめる部分をしっかりアピールしておいてもらえらばと思う。もちろん、私を含め、見る目をもった人間がどれだけ九州にいるのかという、地方性をめぐるディープな問題があって、そう簡単にはいかがいのだけれど ─。
と言いつつ、山田恵理香という若き才能が引っ張り、「自由と破天荒を愛する、九州の熱い血がたぎる劇団」とすぱっと言い切るGIGAの活動はとてもカッコいいと思う。大きなエールを送りたいし、また、「大学キャンパス・演劇ジャック・プロジェクト」といったような形で接点ができれば嬉しい限りだ。
そうそう、今回の舞台は、GIGAのみならず、ギンギラ太陽'S の大塚ムネトさんをはじめ(主役のプロスペロー役。“かぶり”役者とは全く異なる彼の魅力を発見!)、福岡のいくつかの劇団の役者さんも参画し、地域のコラボ企画として実現しているところは、福岡の演劇界にとって大きな踏み石というか事件であったと思う。こうした取組みが持続するためにも、市民がもっともっと舞台に足を運び、「見る目をもったお客」の人口を増やしていく必要があると思う。

*空間再生事業劇団GIGA→ http://spacegiga.com/blog/