日本うどん学会・アジア麺文化研究会へ ─ 麺を芸術作品に変えた人と出会う

太宰府で開かれた、日本うどん学会・第四回全国大会とアジア麺文化研究会の共催イベントに13時過ぎから参加し、5時間近い議論と、その後の懇親会までたっぷりお付き合いした。ところで、今回の企画は、アジア麺文化研究会のメンバーであり、季刊『麺の世界』を編集・発行されている奥山忠政さんのご尽力で実現したものだ。奥山さんの執念で、通巻6号を数えるまでになった同誌が、全国の麺文化(うどん、そうめん、ラーメン、餃子、お好み焼き、たこ焼き、だんご汁等)に携わる人びとの交流プラットホームとなっている。麺と麺の交流を通して、地域どうしの草の根文化交流が広がっているのだ。たまの参加しかできないけれど、こうしたノリは楽しい。
全体の参加者は100名強といったところであろうか。その内の20名強は「うどん学会」のメンバーというか、讃岐うどんを愛してやまない香川そして徳島からのお客様である。7つの講演・研究報告のうち4篇が香川の皆さんによってなされたが、いずれも讃岐うどんについての誇りと郷土愛にみちた報告であった。学会と名のつくものは、通常、対象との距離感をことさらに強調したような議論で占められてしまうが、今日の学会では、ひたすらに讃岐を愛する、まこと愛すべき人びとが大挙して太宰府に押し寄せ、讃岐の食文化を大いに風発して頂いた。情報としての「讃岐うどんブーム」はそれなりに知り得ていても、それを支える人びとの熱気というか人間性エートスに触れることができてとても面白かった。
そのなかで異彩を放っていたのは、讃岐うどんのみならず麺の世界のおかれた現状を講演していただいた(株)大和製作所の社長・藤井薫さんのお話だ。讃岐ブームの先を見通し、文化を基盤に展開してきた地域産業についてのクールな課題分析として、大いに勉強になった。川崎重工でファントム戦闘機等の設計技師を勤めた後、郷里で起業されたという藤井さんは、製麺機製造の大和製作所の他に、うどんとラーメンの卸会社、さらには亀城庵という讃岐うどん店舗を経営され、おまけに(笑)讃岐うどん学校・蕎麦乃学舎・大和的拉麺道という学校まで展開されているだけに、幅広くしかもリアリティのあるお話は、まさに「日本麺界の導師」のような趣であった。
藤井さんの話で一番印象に残ったのは、業界が顧客の進化についていけず、2002年頃から始まった讃岐ブームが衰退傾向にあるとの指摘だ。いずれも20年前のビジネスモデルのままであり、一時のブームの勢いをよそに、外食産業に適した人材の確保難や人件費高騰で、苦境にあるうどん店が少なくないという。それでも、人口100万人の香川県だけで800軒のうどん屋さんがあるというから驚きだ(しかもそのほとんどが自家製麺という)。
藤井さんは、これからの外食産業は讃岐うどんも含め、専門化の時代を迎えるなかで、それぞれが明確なコンセプトの下に、商品力・店舗力・サービス力を組み立て、進化し続けていかないと、ブーム後の存続は難しいのではと手厳しい。技術者として、ハイテクも活用しながら製麺技術をさらに進化させることに情熱を傾けておられるだけに、「お客様を元気にするのが飲食店の使命」「全てが丼(どんぶり)に現れる、麺の世界は一杯の芸術作品で勝負する気概が必要だ」との叱咤激励は迫力満点であった。
讃岐うどんを題材としたご当地映画「UDON」が公開されるなどもあって、讃岐国の皆さんはいずれも意気軒高だ。こうした機会をうまく生かしながら、讃岐うどんの進化形を生み出してほしいと思う。それが讃岐と好対照の博多うどんの進化にもつながるはずだ。

季刊『麺の世界』→ http://www.sunglow.info/
大和製作所→ http://www.yamatomfg.com/  *藤井社長のブログあり
映画「UDON」→ http://www.udon.vc/movie/