講義空間が演劇的であるべきことを忘れていた

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福大・田村さんが、講義の中であるハプニングを仕掛け、やらかすというので、講義科目名もよく知らないまま出かけた。教室には400人以上の学生が、びっしりとお行儀よく座っている。最後の講義ということもあって、大盛況となったとのこと。教室奥前列には、冷泉荘の野田君と山崎さん、そして目黒さん、篠原君など、いかにも視察・見学に来ているといった風情の一群が陣取っている。
じつは、この日の企画、昨年春の冷泉荘のオープニングの時に、空間再生事業 劇団GIGAが冷泉荘のカフェで、お客に何の前触れもなく突如演劇を始めるというハプニングに遭遇したことが発端である。日常化、惰性化し、馴れきってしまった空間を打ち破るかのような演劇行為が、そこに居合わせる人間の感覚を揺さぶり、活性化せずにはおかないことを身をもって体験した。その時、直感的に「大学の講義は、演劇的に再生すべき空間の代表例」との思いを抱き、「次は大学でやったら」と劇団代表の菊沢さんにお勧めしたことだった。で、数日後、劇団員がもぐりこんでも目立たないような大教室での講義を担当されている田村さんにこのプランを告げたところ、快諾してもらった。そして、しばらくの期間をおいて、野田君のプロデュースによって、とんとん拍子に話と準備がすすんでいった。
講義が始まり、20分くらいして、教室のほぼ真ん中あたりに座っている「女子学生」が立ち上がり、「あのさ、この先生好かんっちゃん。前ね、5分遅刻してきたら、みんなの前でえらい怒られたったい。もうバリムカツイてさ。ありえんくい?・・・・」と大声で喋りだした。そこから、劇の始まり始まりである。田村さんの霊を含め、GIGAの6名の団員が40分ほど、教室を占拠し、飛び回りながら、ドタバタ演劇を展開していった。勉強に一向に身を入れず、お気楽暮らしの今どきの学生像、学生たちの不甲斐なさに愛想をつかし毒づく「田村教授」、彼らの心の空隙を見透かして除霊ビジネスを目論む妖しい霊媒師などが次々に登場し、教室はハレの舞台に一変していった。
学生たちはさすがに最初はキョトンとしていたものの、しばらくするとこれが「劇」であることを理解し、劇の世界に入り込んでいることが背中ごしにも伝わってきた。そして、劇は「田村教授」役の菊沢さんが「福岡を愛する人へ、、」と黒板に大書し、福大応援歌を歌いながらに大団円を迎え、教壇で劇団員の挨拶が始まった。とその時、教室のほぼ真ん中あたりで、スマートな雰囲気の学生が突如立ち上がり、「意味があるのですか、こういうことを講義中にして。自己満足、ヤラセじゃないか」と詰め寄り始めた。それに対し、田村さんが「ヤラセではない、君は前回、僕が感動ビジネスということで講義で言ったことを聞いてないのか!」とやり返し始めた。そして終いには当の学生君、田村さんに「合わない」との捨てぜりふを残し、教室を去っていった。これも最初は劇の一部と思いきや、シナリオにまったくないハプニングであった。「劇中劇」ならぬ「劇外劇」である。そして、この学生の出現と怒りの発言という非日常的な事態の進行によって、当の教室空間が、結果的に大いに活性化したのだった。「劇が劇を呼び込む」を地で行ったような瞬間であった。
今回の実験の決行については、当の田村さんがブログでとても素敵なコメントを残している。


最後に私が、感動を与えることが新しいマーケティングや集客論だという論調が最近聞かれるが、感動に訴えるということは顧客の感情に訴えることであり、それだけリスクが大きい。何が好きで嫌いか、気持ちがいいか悪いかなどといった感情ほど、個人差の大きいものはないからだ。今日のことは、そのことを学ぶいい機会になったと思う、といった感じの締めをした。
自分のことを理解しない他者が周りにどれくらいいるか。その数が多いほど、ハプニングも起こりやすく、豊かな人生になるのだろうか。このような哲学的な問いかけを、昨日から今日にかけて、いくつも自分に投げかけている。


教室という制度化された空間での出来事を通じて、演劇の生命力が日常性という物語や自我中心的な感情に対し、ザラッとした異化効果を投げ掛けることにあるということを教えてくれた。田村さんにとっては、自らリスクをとる生き方、働き方を実践し続けるぞということを学生たちに改めて宣言する機会となった。拍手喝采である。人生は一抹の劇だ。そうである以上、もっと演劇性を自覚した生きかたを探求しないとマズイなと、しみじみ思った。このところ、生きぶりがどうも演劇的でないのだ(苦笑)。しばらくは、GIGA衝撃波が脳内マッサージをしてくれることになりそうだ。


 *田村さんブログ「大学インサイトtamtam通信−大学の教育現場から」
   → http://blogs.yahoo.co.jp/kaorutamu
 *空間再生事業 劇団GIGA
   →http://spacegiga.com/
 *冷泉荘
   →http://kawabata.travelers-project.com/