学生の力を知る

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大学院向けの全学共通科目として実施した実践プログラム「KIZUKI ─創造への扉を開くために 」が、最終成果報告会で幕を閉じた。
プログラムに参加した8名は、いずれもマーケティングや市場調査とは無縁の分野で学ぶ学生たちであるが、その彼らに教室となった九州大学・大橋サテライトのすぐそば西鉄大橋駅をフィールドサーベイしてもらい、「気づき」を起点に新しい駅のありようを提案してもらおうというプログラムである。学生は、「まだない・チーム」「ムンク・チーム」と2つに別れて作業を行っていったが、メンバーは互いにまったくの初顔合わせであった。文系では福岡教育大学の女子学生(3年生)が加わったが、あとは「理学府で水素ガス発生」「芸工府で画像」「生物資源工学専攻で細胞制御」「システム生命科学府で分子細胞生物」「理学府で凝縮系科学」と、すべて理系の学生たちである。
報告会に先だって行った授業は6回のみである。12月19日のウォーミングアップ(他己紹介、米国デザイン企業・IDEO社紹介ビデオ鑑賞)を皮切りに、20日のインクルーシブ・デザイン・ワークショップ(「発想」をかたちにしてみよう)、1月9日の「大橋駅を観察・調査してみよう」、12日の「大橋駅を観察・調査してみよう(?)仮説抽出」、16日の「開発コンセプトを企画しよう」、18日の「開発コンセプトをまとめてみよう」である。短期間のクラス・ディスカッションを経て、2チームがそれぞれのコンセプトで、「大橋駅のリニューアルプラン」を提案してくれた。
じつはこのプログラム、学生たちを現場に放り出してみて、彼らが低い目線でどれだけの気づきをつかみ、それを起点とした問題解決提案をどのレベルまでもっていけるか、それを試してみたいという狙いをもって企画したものだ。そして机上の演習に終わらせないためにはプロの問題意識に直接ふれることが不可欠ということで、大橋駅西鉄・大橋名店街運営室長の井上さんには講義に2度来ていただき、報告会には井上さんに加え、福岡市南区において大橋駅の再開発問題に関係されている地域整備課、企画課それぞれの課長・係長にも来ていただいた。さらには、アドバイザーとして参画いただいた(株)ジーコムの神崎さんが商業開発のプロである乃村工芸社のプランナー・金子さんを誘っていただいた。
で、肝心の成果発表であるが、2班ともにとても素晴らしいプレゼンであった。短期間ながら現場の問題をきちんと把握し、奇をてらうことなく若者らしい視点から提案をまとめあげてくれた。その詳細は、講座の交流サイトにおける報告に譲るとして、今回のプログラムでは改めて学生の潜在力を知ることとなった。アドバイザーとした参画してもらった田村さんは、その力が理系の論理的思考能力にあるのではと報告会でコメントをされていた。同感である。そして個人的にはそれに加え、「チーム学習」と「プロとの接触」の二つをあげておきたいと思う。
プログラムに参加したある学生は、「正直、この一ヶ月研究室忙しかったから、途中行くかどうか迷ったこともあったけど、みんなと顔合わせて話し合いすることも楽しかったし、4人班という少数だったからこそ自分が行かなきゃって責任感があり、ちょっと先取りで仕事に対する姿勢とか責任感を学ぶことが出来た」との意見を寄せてくれた。チームでの学びあいが個人の力を引きだすのに触媒として作用し、彼らの表情に浮かび上がってた「みんなでひとつの案を形にして発表する」わくわく感がオーディエンスとして参加したプロの心をうったのだと思う。プロを前に堂々とプレゼンし、鋭い意見とともに、「短い時間でこれだけのことを考えたこと、それから自ら応募して取り組もうという姿勢など賞賛しても賞賛しきれるものではないと思います」といったお褒めのことばを頂戴できたことは、彼らにとって何よりの勲章である。
「まだない・チーム」と「ムンク・チーム」。たった1ヶ月余りの協働プロセスであったが、それを通した学生たちの変化や成長ぶりをみて、教育プログラムの作り込みがいかに大切かを改めて痛感した。次は、プログラム開発にあたる「プロ教員」としての力量が問われる番だ。

 *KIZUKI交流サイト→ http://usi.comlog.jp/kizuki/new_items/1.shtml