東京そして名古屋へ

火曜日、経済政策にかかわる某省の委員会に出席するため、朝10時の便で東京へ。この会議、何のために、どんな出口を念頭において招集されたかわからないもどかしさが最初からあったが、今日もそのもやもやは溶けずじまい。ワタクシ同様、フラストレーションをかかえて臨まれている九州の某県から来られたある課長からの、「あらかじめ特定の政策意図をもって招集された委員会ではなく、あくまで自治体や関係各方面の状況を調査するための調査委員会ではないか」との指摘に、ナルホドと納得。そのひと言で、会議運営が不慣れなシンクタンクに委ねられ、主催者側の意図がよく見えなかったこれまでの状況についてもその意味がよく理解できた。時代が変わり、産業を直接コントロールするような出番が少なくなった段階で、経済官庁としてどのようなかたちで政策を企画・推進していくのか展望しづらくなっているのであろう。しかし、明快なビジョンが設定されないと、現場との霞が関との距離は開くばかりだ。
余談であるが、この委員会に関連する動きとして、大臣招集の有識者懇談会というかたちで、経団連のお偉方やトップデザイナー、有識者をメンバーとして、「感性価値の創造」をこれからの日本がめざすべき方向として打ち出すための会議が近く招集されるということを知った。「美しい国づくり」とリンクした動きであろう。必ずしも当該分野の専門家でもない人物を含め、各回の著名人・有識者を集め、トップダウンの緊急提言というかたちで、一つの政策誘導を行っていこうという手法である。「教育再生会議」がその典型だ。しかし、有識者・各回リーダーに集まってもらった数回の議論のみで、10年先、20年先の評価にも堪えうるようなビジョンと政策の検討がはたして可能かどうか。ただ、既存集団のシガラミや固定観念から離れたところで、新たな展開に切り換えていくためには、日本ではこうした手法以外には難しいこともよく理解できる。ここに日本という社会の生理学がある。
感性価値の創造ということで、これからの社会や産業が向かうべき新しい方向を、国としてどう打ち出していくか、大いに注目しよう。いまだ抽象的なレベルにとどまる「美しい国づくり」が、企業や地域社会、教育といった具体的な次元にどう落とし込まれていくかという試金石でもある。
東京の会議が終わった後は名古屋へ。翌日午前、親子二代でお世話になっている中京大学の寺岡寛さんを訪問し、よもやまの話にのってもらうためである。泊まりは久しぶりの東横イン。このホテル、昨年、行政の指導にしたがって設置したはずの、身体障害者用の駐車スペース、身体障害者が利用しやすい部屋、点字ブロックなどを勝手に撤去していたということでマスコミにたたかれた。ボクにとってそれが意外だったのは、このホテルの経営者が、自分の心の内側に目をむけ、気づきを会得していく方法である「内観」の普及に熱心であることを知っていたからだ(ホテルの各室には内観についての本が置かれている)。個人的には通常ユーザーにとって、立地、価格、サービス、接遇の各面がとてもよくバランスがとれているホテルだと思っている。東横インの独特のサービス展開と社内での「内観」の共有が、密接に関係しあっている様を知りたいと思っていた矢先に、あのマスコミ「事件」が起きたというわけだ。そして、マスコミでの社長の対応や態度がよろしくなかった。そこで、気になっていた「事件」の顛末について、フロントの女性スタッフに尋ねたところ、入社したばかりでよくわからないという返事であった。「?!」との思いはあるが、その点は別な機会に、関係者に確認してみたい(同社の公式のお詫びはホームページに掲載)。
明けて水曜日、寺岡さんにはたっぷり3時間のよもやま話で、いつものことながら深いサジェスチョンをいただいた。現代社会において、制度化し、役割を終えてしまった大学のありようをしっかり見据え、それに対するオールタナティブ(代替案)を「学外疑塾」としてまさに東奔西走しながら実践されていて、その実況中継はいつ聞いても面白い。教育者としての寺岡さんの基本哲学は、ボクなりに咀嚼すると「一人一人の学びをケアし、人間としての成長に向き合う持続型パートナーシップ」。言葉にするのは簡単だけれど、なかなか出来るものではない。さらに、大学を離れた後の「寺岡疑塾」の展開拠点を、国と文化の壁を超えて、フィンランドのツルクと設定されているところも気宇壮大で、凡庸化しがちなイマジネーションを刺激してやまない。お昼をご馳走になったあと、博多への帰路についた。機中では、寺岡ゼミの学部生がチームで取り組んだという手づくりの小冊子「人生の糧になる言葉 101の名言」のページを開きながら、とても温かい気持ちになった。

 *学外疑塾 →http://ivory.ap.teacup.com/gijuku/
 *内観 → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E8%A6%B3
 *東横インのお詫び → http://www.toyoko-inn.com/news2.html#owabi0405