「うれしいわ」を社会に

毎朝たのしみにしていた宮城まり子さん(ねむの木学園 園長)の日経「私の履歴書」がきょうで終了した。きのうの最後が、「さあいよいよ明日、『私の履歴書』の最後の日です。」とあったので、きょうはどんな話で終わるか待ち遠しかった。
「うれしいわ」を社会に。これがまりこさんの最終回のメッセージである。
森ビル社長の森稔さんから、「絵を描いて持ってくるだろう。そのとき何て言うの? 『上手いね』とか『ここがいい』とか言うの」と質問された時の言葉だそうだ。「言いません。『これ上手く描けた』って言ったら、子どもはその場所で終わるような気がしますから」「何て言うの?」「私は『あーうれしいわ」って言います」「あーうれしい、か」「はい。子どもは人を喜ばせたと幸せに思ってくれます」「うーん、うれしい、ね」「はい、うれしーわ」。
「あーうれしいわ」にまり子さんのやさしさが凝縮されている。
もう一つ、連載の最初のほうの、まり子さんの強さというか深い人間性にふれるエピソードが印象に残っている。
脳性小児麻痺の少女の役をもらい 1ヶ月間福祉施設にかよい、麻痺をかかえる子の動作を観察して、一生懸命その役になりきろうとしたという。そして最終的には役者としてその動作を再現できるようになったものの、舞台では最後の最後まで悩んだ揚げ句、コミカルに演じるという要求に応えられなかった。そこで、健常者のまま演じた。しかし、拍手はもらえなかった。お客さんの中にその病気の人がいたらとか、家族がいたらと想うと演じる事が出来なかった。そして、舞台後、まり子さんのファンという女の子が、感激のあまり楽屋に突然訪れてきた。それがまさしくその病気の子だった、と。
ひとはぎりぎりの局面でひととしていかに生きるべきか。まり子さんのこのエピソードのなかに「倫理」の本質がある。