承天寺の怒り(13)世俗の法を超える見識があれば


承天寺、その後である。さる6月27日に、東宝住宅福岡支店から「現計画にこだわることなく、地域に貢献する形で計画を見直す」と市都市景観室に話があった。しかし、山笠シーズンとなったこともあって、本格協議は山笠が終わってということで、しばし小休止状態となった。この間、企画・設計担当が博多部に事務所をおく会社に変わったりで、いい方向に展開していきそうな期待がしばし関係者に膨らんでいた。
そして会社と地元との協議がこれまで、7月24日と8月28日の2回行われた。後日、その模様を聞いたところによると、2度目の協議の際には、先方から3つの案と模型が提示されたとのこと。案というのは、寺からの景観や川上音二郎墓との位置関係などによって、3つの異なるパターンが設定されていた。その計画書をみるなり、至雲住職(協議の席には不参加)は、議論そのものが会社のペースに乗せられて進行していたことを察知、「これらの案では悪しき前例を残し、御供所地区はとんでもないことになる」と危機感をつのらせていった。
というのは、3案はいずれも市がこの地区における景観規制の目安として設定している20メートル高を越えており、しかもその高さは図面には記されてなく、聞いて初めて先方から知らされたものだという。延べ床面積についても、図面への記載はなく、3案ともに2700平方メートルと数字が見事に揃っていたというから、住職の怒りに火がついた。要は、柔軟協議のための複数の提案というよりも、延べ床面積2700平方メートルが採算ベースで譲れない最低線(前提)であることが、明快に主張されていたというわけだ。
こうした経緯を経て、この25日には第3回協議の場がもたれる。その対応策については、19日に関係者で事前に集まり相談がなされたが、住職のお誘いで僕も参加させていただいた。事前相談会では住職の提案で、「次回協議ではこちら側の主張を真正面からぶつけていきましょう」ということになった。その中身についてはふれるわけにはいかないけれど、承天寺が譲ることのできるギリギリの線である。その提案が、今後の交渉でどのような展開を引き出すか ─ 。それにしても、寺を預かる上方の戦略眼というか交渉術はなかなかである。専門家の陥りがちな技術論や行政的・法的な手続き論とは無縁の視点から、第一当事者として原則論をきっぱりと主張される。山笠や博多織をはじめ、博多の歴史文化の中軸を支えてきた矜持があるだけに、その迫力は誰にも負けない。禅の公案で鍛えられた本質思考が本領発揮といったところだろう。
承天寺を怒らせると大変だ」。解決の糸口が見出せるとしたら、世俗の掟や法に流されがちな人間がそのことに気づき、博多の歴史のなかで承天寺の果たしてきた役割にまずは謙虚に向き合うことではないだろうか。