天寺の怒り(14)「聖と俗」をわきまえる礼儀作法が町には必要

(このところ、従姉妹の突然の死があったり、仕事の山が重なったりで、ブログに向かう気力がなくなっていた。けれども、なんとか平常ペースに戻りつつあるので、記録としてしっかり残しておきたい出来事を振り返りとして書き留めておこう)

 この日の18:30より、御供所公民館で会社と地元との第三回目の協議会(市の文書によると「承天寺隣接地の建築計画に関する意見交換会」)が開かれ、初めて参加した。会社側、地元、市など計17〜18名が集まった。直接の関係者による協議の場ということなので、あくまでオブザーバーとしての参加である。最初から発言はしないと決めて臨んだ。東宝住宅の福岡支店長・東潤一郎氏や、間に入っているマンション開発プロデュース会社、設計会社の代表者の方々との名刺交換をさせていただき、協議がスタート。
 まずは冒頭、永野間景観室長から「地域ともにローカルルールを定めたことを前提に説明をして欲しい」との挨拶。永野間室長の口からは、後ほどの会社と地元との厳しいやりとりのなかでも「景観は見てくれだけでなく、地域の人びとの生き様でもある」と、景観行政をめぐる良質の原則論が提示され、市場原理や単なる手続き論だけに終わらせるわけにはいかないとの市の立場が明確に打ち出された。相当な気合いを入れて臨まれていることが端から見ていてもよくわかった。
 対し、会社側の説明は、前回協議の折に提示された3案のうちの一つ、川上音二郎の墓の前を削り、延べ床面積も前回案から2割削ったという案に絞り込んでなされていった。しかしその案は、「お墓に迷惑をかけない」ということで真ん中部分を削った分だけ、高さ部分にしわがより、御供所地区における市の景観指導ガイドラインである高さ20メートルを大きく超える32.4メートルとなっていた。
 会社側の説明では、「現状の駐車場としての利用では、歴史的地区といいながら町が寂しいので、この地区に居住人口を呼び戻して地域活性化に貢献したい」という発言に始まり、「入居者が山笠に出れば1万円をキャッシュバックといったことも考えられる」という珍案、「東京ではお墓をのぞむマンションが人気が出ている」といった余計なとしかいいようのない発言まで飛び出していった。しかしこれらはいずれも苦しまぎれの発言で致し方なしと理解した。そして、とどのつまりは「土地を有効利用していくという事業者の立場を理解してほしい」というのが会社側の意向であることが明らかとなった。
 これらの説明に対し、承天寺の顧問弁護士である熊谷氏は上方(至雲住職)の意向ということで、「承天寺側の塀の高さ(4.2メートル)を超えない範囲、塀からはずれた表通りに近い側も20メートルを越えない範囲でおさめてほしい」ときっぱり発言。さらに、その主張の背景としては、800年に及ばんとする寺の歴史と、天皇のお札を掲げる勅賜禅寺としての風格を継承していかないといけない責任があり、上方の立場としては原則論を間引く訳にはいかないとの説明がなされた。さらには、室町時代の五山十刹にも数えられた由緒ある禅寺であることや、博多が聖福寺承天寺門前町として発展したこと等を踏まえ、そのことを尊重する事業計画を出し直して欲しいと、迫力ある発言をなされた。
 かくして双方の主張の間に、とてつもなく大きなギャップが存在していることが明らかとなった。上方の主張する条件で計画を練り直すとすると、54戸の提案を12〜13戸くらいにまで縮小せざるを得ない。これはでは常識的に言って、事業採算をにらんだ交渉ということにはならないのはシロウトでもわかる。熊谷弁護士がいみじくも言われたように、これはもはや「個別利害調整の問題」ではない、私企業とはいえ社会的存在でもある東宝住宅のCSR(企業の社会的責任)が問われているということになるのだ。
 「土俵がちがう」。そして最後近くになって、事業性と文化性、市場原理と生活原理の矛盾と解きがたい対立を感じ取った長谷川法世さんの発言が飛び出した。「そもそも模型や図面を使って説得しようとうること自体がずれているのでは?」「例えば、神様の祭ってある櫛田神社の上は飛行機も通れないくらい神聖な空間なんです」と、<聖>と<俗>における思考土俵の差異を簡潔に表現された。言葉こそ遠慮がちであったが、「経済やマネーの論理では<信>や<心>の世界は説得できないよ」「太閤町割りで軒を互いにそろえ共に生きてきた博多の歴史や文化に対する礼儀作法をもっとわきまえるべきでは」というメッセージがそこにはあった。
 いずれにせよ、どこかで聞いたようなことを言わざるえない会社側と、地元側の生活感覚や歴史感覚を背景とした強烈な批評精神との見事なコントラストが浮かび上がった2時間であった。会社側にとっては、生き様の核の部分を構成する<信>や<心>との対話・説得という、無理難題とうか不条理に直面しているわけだ。彼らがこの不条理をこれからどう解いていくか。ほんとうに難問だと思う。そこに道が開けるとすればただ一つではいか。それは、地元と地域発展に向けた<祈り>を共有していくことができるような、現状(マネー原理)を超え出る勇気をもった提案を、社長決断としてなしうるかどうかだと思う。
 この日の協議を踏まえ、東宝住宅で再検討し、3週間後にその結果が知らされることになった。さて、どんな再検討案が出てくるだろうか。