博多織にさわやかな新風


承天寺において9日〜11日の日程で開催されている105回博多織求評会に出かけた。毎年この時期、博多織工業組合の主催で行われる、博多織新作の発表会である。着物の愛好家はもちろんのこと、業界関係者、デパートのバイヤーなどが訪れ、一般参加者も展示場となったお堂や居室をまわりながら、袋帯、小袋帯、八寸なごや帯、着尺、男帯など、ジャンルごとに投票を行う。
ねらいはというと、やはり博多織デベロップメントカレッジの学生たちの作品だ。昨年は1期生の作品のみであったが、今年は2期生13人分の作品も加わり、堂々と「一角」を形成していたのが、カレッジのはしくれ教員としてとても嬉しかった。とりわけ、1期生3人(宮川・村田・瀧口)が、本殿のいい場所に特別コーナーをしつらえらえてもらい、その作品が数点ずつ飾られていたのを目にした時は、そこはなとなく得意な気分になった(涙)。そこには、ぱっと目につくあでやかな有栖川文様の着尺(和服一枚)も飾ってあったりで、「2年目たらずでよくもここまで」と驚いてしまった。昨年も「わずか半年余でここまでくるとは凄い」と思ったことを思いだし、ほとほと感心してしまった。彼女ら、来年はいったいどこまで行くんだろう・・・
1期生の作品コーナー
彼女らの作品に、夢と意欲さえあれば人間の成長は無限であり、劇的でわくわくするものだということを教えてもらった。カレッジの庄嶋理事長もとても誇らしげで、「じつは、高島屋の方がお見えになり、カレッジの皆さんのが一番いいですねとほめてもらったんですよ」とおしゃっていた。既存の常識や枠組みにとらわれない、若々しい感性と伸びやかなエネルギーが作品に素直に表現されていて、並み居る先輩たちをよそにプロのバイヤーを感動させていく ─ 。
正直言って、「伝統工芸は10年たってやっと一人前」というのが通り相場で、僕もシロウトながらそうなんだろう、わずか2年で売れる作品がつくれるようになるのだろうかと思っていた。しかし、この仮説は書き換える必要があるかも知れない。詩人であり小説家である辻井喬は「伝統」について、「歴史的存在として大胆な自己革新を行う運動体であり、その運動によって新しい文化芸術を形成する源」であると看破しているけれど(『伝統の創造力』)、博多織の世界に新風を巻き込んでいるカレッジの若き工芸人たちは、クリエイティブな運動体である「伝統」の担い手として立派に役割を果たしていると言ってよいだろう。運動体としての伝統は、「もの」の世界以上に、「こと」すなわち創造・独創とその精神が勝負だ。制作者の名前よりも織元のブランドや宗匠的な権威がものをいってきた博多織の世界で、彼女ら彼らがどんな伝統をひらいていくか、これからが大いに楽しみだ。