玖珠で久留島武彦との出会いなおし

童話祭 三島会場
昨年に引き続き、大分県玖珠町での「日本童話祭」に朝から出かけた。継続は力なりで回を重ねてきた童話祭も来年はいよいよ60回の節目を迎え、あわせて日本童話祭の父ともいうべき久留島武彦氏の没後50年の年でもあるそうだ。
童話祭の「飾らない」「素のまんま」「ゆるい感じ」は昨年とかわることがなかった。福岡市・長住商店街の飯盛利明さん、声楽家・作曲家の岩崎記代子さん、プロデューサーの宮木初雄さんといった、メルヘン大使仲間のお元気な 姿も昨年と変わりなかった。

今年は、単身参加だったこともあり、祭式の後、マイペースでゆっくりとまちを歩くことができた。とくに、久留島記念館では、「日本のアンデルセンと言われた男」というよくできたテレビ番組のビデオを鑑賞し、展示資料をゆっくり見ることができた。そのお蔭で、久留島武彦との出会い直しを果たせたせし、自分なりの発見もあった。

発見といったが、記念館の壁に飾られた年譜に、1903年横浜で、博多の生んだスーパースター、オペッケペー川上音二郎貞奴とともに「お伽芝居」を創設したというくだりを見つけた。日本近代演劇の開拓者である音二郎・貞奴と童話口演の武彦の出会いというのは、激動してやまない明治の一断面として興味がつきない。この件は、川上音二郎没後100年事業を準備している長谷川法世さんにも伝えることにしよう。
音二郎との巡り会いの秘密は、記念館の壁の年譜のすぐ横に紹介されていた、武彦が口演の思想書として書いたという『童話術講話』のなかの一節にあった。「子どもに話すということは、刹那刹那の真剣勝負。一分として余裕がない、一分として隙がない」。待ったなしの空間での、子どもというオーディエンスへの直接的な語りかけ(60年で7000回!)に生涯をかけた武彦と、演劇という言葉を超える世界への扉をひらき続けた音二郎・貞奴が発していたであろうオーラの妖しい共振が目に浮かぶようだった。
じつは、武彦は100数十編の作品があるものの、作家というより、口演童話人・児童文学者として世間では知られている。生前はよく、なぜ作品をつくらないかと問われて、彼は「童話の話し手が少ない。私は書く時間があれば、それを口演にあてる」と答えている。書くという「静」の人間ではなく、語り・演じるという「動」の人であり続けたのだった。

それとも関連するけれど、武彦についての二つ目の発見は、玖珠町森の成覚寺での11歳の時の彼の経験のもつ重さである。黒染めの衣をまとった説教僧の講談口調の「クリ弁」が、少年武彦の心をわしづかみにし、説話や口演の虜にしてしまったという事実だ。日蓮宗の「クリ弁」は、当時、寺に説教僧が10日あまり滞在し、日蓮上人や加藤清正の一代記を連続で語っていったという。そんなことが、記念館におかれた資料に書かれていたのだった。武彦の「語り」「口演(口で演じる)」には、起源として深い闇の世界が宿されているのだった。
10歳をわずかに過ぎたばかりの子どもの人生を決めてしまうほどに深い影響を与えた、その成覚寺にも寄ってみた。境内の集会所では、長野県松本市から見えたという人形芝居 燕屋による肩掛け人形芝居「ねずみのすもう」が演じられていた。そして、そこには、人形芝居に目を輝かしながら見入る子どもたちの姿があった。この子どもたちの心に、さてどんな灯がともされ、将来、どんな人間をつくっていくのか。

そして、もう一つ。「日本のアンデルセン」と言われるようになった経緯も、以前、目にしているはずだけれど、改めて感じ入った。1924年アンデルセンの生誕の地であるオーデンセを訪れた武彦が、そこでたまたま出会った新聞記者を「デンマーク人はアンデルセンを充分な尊敬をもって扱っていない」と叱りとばしということが、武彦の発言として、デンマークの全国紙の、その当の記者の驚きとともに記事にされているのだった。「記念館を訪れましたけれど、きちんとしていないし、みすぼらしい」「デンマークアンデルセンの幼少の家全体を元のように維持する余裕はないのですか」「200年たたないとデンマーク人はアンデルセンの偉大さを理解できないのですか」。そして、最後は、記者の忸怩たる言葉で閉められていた。「このように日本の記者は語った。彼の国は亡き人に対して、我々より尊敬と配慮の念をもっている。我々は正しく彼と彼の言葉を肝に銘じて学ぶべきではなかろうか」。
久留島武彦というのは、明治・大正・昭和の日本を進取と開拓精神で生きた、村上水軍末裔ならではの肝のすわった、じつに気骨のある人物だったのだ!  でも今頃、こんなことを言ってては、メルヘン大使失格(笑)だなと思いながら、童話祭の会場を後にした。

 *久留島武彦→http://www.ooita.jp/~kurushima/
 *日本童話祭 → http://www.town.kusu.oita.jp/nencyu/douwasai/2008/index.html
 *昨年の日本童話祭 → http://d2.hatena.ne.jp/rakukaidou/20070505