化粧

この顔は整形外科医の作品なので、いまは基本的に化粧はしません。毎日化粧をしていると、脳が化粧をした顔を本当の顔だと思ってしまって、すっぴんでは外に出られなくなるんです。
中村うさぎ(作家)


自らの買い物依存症の体験を、赤裸々にそして日標的に綴って話題を集めている中村うさぎさんが、脳科学者・茂木健一郎さんとの対談で語った言葉である。化粧という日常の行為が、「自己」の意識はどうやって生まれ、どこに根拠をおいているのだろうという難問にふれる、人間くさい行為であることがわかる。ヒトの「心」は必ずしも自己の内側に閉ざされているわけではなくて、少し化粧や整形をしただけで変わりうるオープン・システムなのだろう。
自分の顔を、「整形外科医の作品」と言ってのけ、「作品」との距離感をしっかりおさえている中村うさぎは、不気味な説得力をもった作家だ。今度、新しい「中村うさぎの作品」を求めることにしよう。

(出所)『通販生活』2006 夏号 対談「人はなぜ買い物をしたがるのか」