絵本の不思議な力

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昨日、会期最終日ということもあり、芥屋からクルマで15分、九州大学伊都キャンパスの「絵本カーニバル in 伊都」に出かけた。久しぶりの伊都キャンパスは、コンビニや食堂ができ、新しい建物も箱崎から次の移転組を待つばかりの状態で、新キャンパスの整備が着々と進んでいることがうかがえた。そんななかでの今回の絵本カーニバルでは、300冊の絵本展示とカフェの出店によってどんな空間が出現しているか、楽しみであった。
日曜日ということもあり、学生の姿はパラパラでしかなく、そのかわり親子ずれが主たるお客さんとなっていた。絵本カーニバルは、もう何ヶ所も訪れてきたが、これまでどの会場でも、ふだん見慣れた、忘れ去られたような空間が、絵本によって状況が一変する不思議な経験を味わってきた。今回のカーニバルでも、現在まだ整備中で、文化的な要素の乏しい、巨大な建築群が立ち並ぶ、どちらかと言えば機能一点張りのキャンパスの一隅が、絵本の存在によって、柔らかい、ほっとするような異次元の空間に様変わりしていた。
ちょうど、学生生活・修学相談室の田中健夫先生がお子さんと見えていたので、会期中のカーニバルの様子を聞くことができた。それによると、伊都キャンパス内の動線で食堂に至る“メインストリーム”に出現した絵本の空間は、意外感に充ちていて、通行する学生や教職員に「おやっ?」「へえ〜っ」という驚きをもたらしたという。もちろん、立ち止まり、座り込んで絵本の世界を楽しんでいく学生も少なからずあったというが、気ぜわしさが勝っているのであろうか、先生方のなかには見てみないふり(笑)をして立ち去る方も多かったとのことある。自然環境に恵まれたとは言え、地域社会との関係性や、内部での交流機会が希薄な時空間での生活は、どうしてもメンタル・ケアを必要とするような学生を生みだしがちなので、「今回の企画は非常にありがたい」と田中先生。遊びや無駄のない均質空間に、突如出現した「異化空間」のインパクトは、会期中の延べ来場者1000人という数字を超えるものがあったようだ。大学には、文化的な魅力はもちろんのこと、想像力を刺激する多様性という資源がとても大切なことを、絵本カーニバルは教えてくれたように思う。
今回の企画は、志摩町桜井に住む、九大をこの春に卒業した楢崎君の企画である。子どもプロジェクトのメンバーである楢崎君は今、いろんな場所で絵本カーニバルを仕掛けていくことに情熱を注いでいる。カーニバルが終わって、彼とは「絵本とカフェ」を常設で提供できるようになれば、伊都キャンパスの魅力がぐっとますよね、と話したことだった。それが実現すれば、周囲の子どもや親たちもキャンパスに来やすくなるにちがいない。

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