保育園と大学が連携する時代

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きょう(21日)は夕方4時頃から、九州大学箱崎キャンパスの中心部ではでいくつかの露店がならび始め、非日常の祭りサウンドや太鼓の音色が研究室にもひたひたと伝わってきた。毎年、この時期恒例となっている「まつぼっくり保育園」の「ビールまつり」である。お祭りの気分が伝染してしまった我々も、部屋の人間で誘い合わせ、就業時間が過ぎる頃を見計らって、まつり会場へ出陣した。
会場では、保育園の父兄が奔走されるなか、生ビールはもちろんのこと、焼き鳥、たこ焼き、枝豆といったお店の準備はすでに整っており、まだ明るい日差しをうけながらスムーズに(笑)乾杯と相成った。子どもたちによる太鼓のアトラクションや路上バザーも繰り広げられ、ふだんの静かなキャンパスは一変していった。
しかし、見たところ、お客や参加者のかなりの部分は保育園関係者のように見受けられ、大学キャンパス内にある全国的にも稀な保育園と大学との一体感の演出や、ほのぼのとした交歓風景というにはちょっと寂しい感じがした。
この「まつぼっくり保育園」、じつは2ヶ月ほど前にユーザーサイエンス機構 子どもプロジェクトの目黒実さんと一緒に園長先生にお会いし、保育園経営のご苦労についてお話をお伺いしたことがある。それによると、まつぼっくり保育園の母体となる九大保育所が誕生したのは1954年だそうで、子どもを育てながら働き続けたいという、九大で働く婦人達の思いを皆で支え、育てていくという使命をもって、西日本地区の国立大学で最初の学内保育所として発足したものだという。現在も九大の教職員や留学生の子どもたちがたくさんお世話になっているというから、実質的には「九大の付設保育園」と言ってよいだろう。
しかし、園長先生の話では、保育園経営については、大学当局との交渉や陳情等、相当気を使いながら事に当たられておられるご様子で、「大学はもっと積極的な支援策を打ち出すべきではないか」という気持ちを抱かざるを得なかった。そうしたこともあり、せめてビールの売り上げに協力しないと! との思いで参加したという次第だ。
で、ほろにがビールとなった翌日、日経新聞朝刊に「熊本大学、女性研究者の支援強化、育児施設など拡充」という見出しの記事を発見した。地元のNPOなどと連携して、育児支援などを充実させ、女性研究者の支援を強化していくことになったというのだ。「先をこされた!」
これからの時代は、女性研究者、若手研究者のみならず、外国人学生や留学生の受け入れサポート体制いかんが、大学の研究・生活環境として重要性を増していくことは必至の情勢である。研究のみならずトータルの生活環境をどう提供していくかが、国内外から優れた人材を引き付けていくいくために避けられない課題となっている。そのなかで最も重要な要素の一つが保育園であることは想像に難くない。にもかかわらず、大学の動きはどうも鈍い。
あるいは、ますます深刻な状況となっている、子どもの環境についての研究はもちろんのこと、例えば「遊びと創造性」といった時代の最先端をいく研究にしても、キャンパス内に保育園が存在することの意味はとてつもなく大きいように思う。
「保育園と総合大学」という、これまではほとんど議論の俎上にすら上らなかった問題が、大学のありようを変える引っかけとなる可能性を秘めている。大学の新しいステークホルダー(関係者)として、子どもたちや、親と子について想像力を拡げていくことが必要だ。

 *まつぼっくり保育園 → http://matsubokkuri.hoikuen.to/matubokuri.html