手仕事のまち・八女

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うだるような暑さの中、「伝統工芸産業振興懇話会」で八女へ。前回は高速を使い、クルマでの訪問であったが、今回は西鉄久留米駅からバスを乗り継いで向かった。交通の結節という点では、どのルートを選ぶにしても微妙に足の便が悪いというのが率直な印象だ。メンタル・マップに「八女」がどこにあるのかを描きにくいという印象を改めてもった。
さて今回は懇話会に先立ち、和紙の松尾手漉工房と石灯籠の馬渡石材産業の2箇所の見学をさせていただいた。いずれも県から特産工芸品の指定をうけている伝統産業である。そして昔ながらの職人の手仕事の世界である。和紙工房は矢部川の川のたもと(きれいで豊富な水を利用)、石灯籠工場は凝灰岩の出る長野地区に集中しており、今も地域資源に密着した産業となっている。
けれども、それぞれに技術や事業の継承に苦労されている様子だ。最盛期には矢部川流域で1800戸が従事していたという手漉和紙だが、現在も続いているのはわずか7件だけであるという。手漉和紙のリーダー的存在である松尾さんが笑いながら曰く、「今日の工房の平均年齢は、職人さん二人にオヤジ・オフクロ、そして私で70歳を超えています」。あるいは、馬渡さんも「灯籠をやっているところで子どもに継がせたいというところは殆どない状態」とおっしゃる。事業としての新しい出口が見えづらい状況が、伝統工芸産業の置かれた“いま”に他ならない。今回の工房見学には、仏壇関係と提灯関係は入っていなかったが、恐らく状況は似たようなものであろう。
こうしたなかで、伝統工芸産業の活性化と振興をどう考えたらいいか ─ 。「発想と行動の転換を!」と叫ぶのは簡単だけれど、それが実践につながるためには、やはり何かのきっかけと気づきが必要なように思う。そこにたどり着けるかどうかが勝負だ。
手漉和紙、仏壇、提灯、灯籠、、、といずれも昔変わらぬ手仕事の世界だ。お茶や日本酒もしかりである。そうした世界がまだマルチで残っているのは、八女にとって大きな財産である。大量生産される工業製品にない、手仕事の風合いや伝統のなかで培われた魅力に対するニーズは潜在的に大きな高まりをみせているように思う。その証拠に、八女の伝統工芸館が、年間6万人もの観光客を集め、歴史の町並みを訪れる人が増えているという。八女のまちを、もっと思い切って「手仕事」や「職人のまち」を全面に打ち出して、アピールしていったらどうだろうか。
そのことが、時間と効率に追われ、精神の空洞化に直面している現代人の気持ちを呼び込むことにつながりそうに思う。現代社会の「再生」というテーマにとって「伝統」は、変化にとって欠かすことの出来ない触媒であり、気づきの契機でもある。けれども、そのためには伝統そのままではなく、伝統という土壌に外部から新鮮な酸素を入れる「切り返し」が必要なように思う。

 *八女伝統工芸館→ http://www.yame-kougeikan.com/m_aboutyame.html

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