2杯のラーメンに麺想する

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日帰りの東京出張である。今日は用事の前と後、お昼とフライト前の時間つぶしということでラーメンを2回食べた。

最初は、前出「品達ラーメン」で最高の人気を誇るという「なんこつっ亭」である。豚の頭と鶏ガラのヘビーなスープと真っ黒のマー油(ニンニクを揚げ、その残り香を含んだ油)の組み合わせが凄いですよという麺友のすすめで、3週間ぶりの「品達」である。

注文したのはねぎラーメンにノリのトッピング。まずは、丁寧に包丁の入ったねぎが別皿でやってきた。それから、ノリで表面をすっぽりと覆われたラーメンが登場(別盛りのねぎはいいとして、このノリにはちょっと後悔が走った)。のりをかき分けると、長時間かけて煮込んだという感じの濃厚スープとマー油の骨太な絡みあいが鼻と目に飛び込んでくる。のりとねぎとのマッチングも良し。相当の気合いとコダワリを投入した一杯であることが了解できた。いい味である。そして、一度食べたら忘れられない食感、香り、色。ただ、「肉系スープは近頃ちょっとつらくなったな」と、作品との距離に人生というか齢を重ねてしまった(笑)。

「なんこつっ亭」での約1時間は周りのお客をみると、屋外で並ぶ(20分)、屋内で並ぶ(10分)、席にすわって一杯を待つ(10分)、麺を味わう(10分)と、それぞれにお作法をわきまえ、作り手やスタッフとの静かな対話をしていることが、よく伝わってくる。まず、店の入り口で「張り切ってやってるぜ!!」との看板が、期待をかきたて、こちらもそれなりの構えをせざるを得ない。店に入ると墨書の挨拶やら案内やらが、「おれたちはこんな思いでラーメンをつくっている」と語りかけ、何より、そこに働く若者たちの動きや仕草が機敏で気持ちいい・・・・すすり終わった丼の底には「うまいぜベイビー」とあって、おもわず「そうだね、ありがとう」である。そして、見渡す限りほぼ全員が、丼とコップをカウンターの上にあげて席をたつ。

もう一軒は、羽田空港ターミナルの「東京 天 ラーメン」。時間があるし一つ入ってみるか、くらいの気持ちである。「なんこつっ亭」の一杯がちょっとヘビーだったこともあり、迷わず「沖縄塩をつかったあさっり塩味のラーメン登場」に目が留まり、注文。店の小ギレイな雰囲気にかえっていやな予感を感じたが、予感的中、50点の出来であった。「こんなものもできます」といったレベルだ。味そのものに主張というか、一杯のラーメンへの作り手の “愛” が伝わってこないのだ。もちろん、高い家賃を払った空港内のショップであることは承知の上であったんだけれど・・・。そこで、「なんこつっ亭」との違いは、どこにあるのだろう? 経営理念か? 腕か? コダワリか? 立地か? とついつい “麺想 ” してしまった。

そして、対照的な2軒のラーメンの差異を説明してくれたのは、たまたま旅のお供として携行した本、『自分の仕事をつくる』(西村佳哲著)であった。デザイナーであり、働き方研究家を名乗る西村さんの主張は明解である。他の誰も肩代わりできない「自分の仕事」をすることが人を満足させるいい仕事の原点である、モノの価値はそれを「つくりたい」という作り手の「気持ちの品質」にかかっている、仕事には「ありがとう」と言われる仕事とそうでない仕事の2つがある、というものだ。

コレだ! たかだラーメンである。でも、その一杯のラーメンの向こう側には、それに関わる人びとの仕事についての哲学や意味付け、人生観、イマジネーションといったものが一杯詰まっていて、結構奥が深い。人の仕事の琴線にふれるのは、身辺を取り巻くこうしたささいなモノやコトを通じてである。久々に「一日二杯」を敢行したこともあって、今日はラーメンに感謝の日であった。



 *西村佳哲さんのHP→ http://www.livingworld.net/nish/
 *品川「なんこつっ亭」→ http://www.shinatatsu.com/raumen/kaku_nantsu.html
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