酒蔵でのコンサートは最高なり

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夕刻。志摩町のお隣・前原市で、日本で唯一、古式手法「ハネ木搾り」の酒造りを続ける白糸酒造が、「酒林蔵部ジャズコンサートの夕べ」を開くというのでカミさんと二人で出かけた。前回、古酒と螢の観賞会(2006-06-03)に出かけて以来、4ヶ月ぶりである。
案内には、純米吟醸酒「喜蔵」の試飲会と男性四人のジャズコーラスグループSilver Close Harmnoyのコンサートということで出し物の案内があった。
コンサート開始に先立ち、4種類のお酒の試飲と、「こころばかしのおもてなし」ということで、里いもと牛肉の煮っころがし、野菜&お酒ドレッシング、おにぎりだんご、奈良漬けが振る舞われた。おもてなしには「プロデュース 吉永えつこ」と添え書きがある。いずれも丁寧につくられた逸品である。
そして、お腹も落ち着き、ほろ酔い加減となったところで、コンサートが始まった。酒蔵でのコンサートは初体験だっただけに、期待をもっての参加であったが、期待をはるかに上回るものであった。何より福岡のコーラスグループSilver Close Harmnoyの皆さんの、ハートフルで見事なハーモニーが素晴らしかった。それぞれに、昼間は仕事をもたれているメンバーの息のあった歌と語りは、大人の魅力を感じさせるに十分。60名ほどのお客のなかには、Silver Close Harmnoyの“おっかけ”とおぼしき、なかなかに素敵な艶齢の女性が5〜6名はおられた。オーディエンスもなかなかのものであった(含笑)。
そして、酒蔵の馥郁とした香りと空気に包まれ、酒樽やハネ木という巨大なオブジェに囲まれてのコンサートは、音響的にも素晴らしく、とてもいい心地であった。いい音楽を聴きながら醗酵を続ける酵母によってもたらされるお酒は、さぞかしおいしかろうと思いたくなるような素晴らしい90分。蔵に宿る「酒の神」も喜ばれたに違いない。
コンサート終了後の挨拶で、田中社長の「酒をつくっていて本当によかった。つくり続けたからこそできた素晴らしいコンサートが出来ました」と言う言葉に飾りは微塵もなかった。「これからもいい酒をつくり、楽しい企画をたてつつ、皆さんとともに歩んでいきたい」という信念に満ちた挨拶に、おもわずホロリとなりそうであった。機械に頼ることなく、じゅうぶんに手間ひまをかけ、地元のお客さんとともに一歩一歩進んでいくという白糸酒造の仕事のやりかたには頭が下がる。最近では、柱や壁に柿渋を塗り始めたという。年を重ねるごとに蔵の材が黒く深く変化していくのが楽しみであるという。これらの取組みそのものが、顧客のこころをつかみ、酒蔵の存在価値を高めずにはおかない。
そして、白糸酒造の蔵に魅かれるのには、もう一つ理由がある。じつは白糸の酒は、芥屋の人間の手によってつくられている。コンサートの帰りに求めた「喜蔵」にも、しっかりと「芥屋杜氏 中村常雄」と記されている。蔵男2人も芥屋の人だそうだ。今でこそ、衰退してしまったが、かつて芥屋は「杜氏の郷」として九州全域に名を馳せ、九州の酒づくりを支えてきたという。ご近所にも、若い頃、蔵男として働いていたという方がおられる。「杜氏の郷」とは、聞いただけでわくわくしてくるではないか。その文化や伝統を何らかのかたちで発掘、再生できないものだろうか ─。カラになった酒瓶のラベルをしげしげと眺めながら、ぼんやりと酒想(笑)したことだった。
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*古酒と螢の観賞会 → http://d.hatena.ne.jp/rakukaidou/20060603
*白糸酒造 → http://www.shiraito.com/#