農と芸の出会い

リベラルアーツ講座で「つながりを聴く 場所を聴く」というテーマでレクチャーをしていただいだ藤枝守さん(作曲家/芸術工学研究院 教授)から、「植物文様」デュオ・コンサートを開きますとの案内をいただき、仕事をすませ糟屋町のサンレイクかすやに向かった。サンレイクかすや(糟屋町は旧筑豊に属する福岡都市圏のまち)という場所もさることながら、九州大学社会連携事業「芸術文化を取り込んだ先導的な食育と地域農産物のブランド化」の一環で、農学部附属農場の主催というのも、何かわけがありそうだと思いつつ、博多駅から篠栗線に乗り込み、長者原駅に降り立った。
その謎はかすやホールにつくなり解けた。藤原恵洋さん、知足院美加子さんといった、建築やアートの領域でクリエイティブで独立精神旺盛な活動をされている、学内少数派(笑)の面々だ。互いに「あら、どうして?」と言った途端にその場の状況がつかめてしまうところが面白い。藤原恵洋さんからはボクの顔をみつけるなり、「今回の企画をされた附属農場長の中司先生はとてもユニークな方なのでぜひ紹介したい」との言葉。この企画が一つの志で結ばれていることが、瞬時に了解された。久しぶりの知院さんは、「みかん選果場でインスタレーションをやって、とても感動しました」とうれしそうである。
肝心のコンサートは、「植物の声」を聴くということで生まれた藤枝さん作曲の楽曲を、ヴァイオリンの鈴木理恵子さんと笙の石川高さんが演奏された。藤枝さんの「植物文様」シリーズはCDでは聴いたことがあるものの、生演奏は初めてであった。聴くものをほんわりと包み込み、すべてを一体化させるような、植物のいのちのリズムが、ここちよく身体に染み渡った。そして、うっとりしたあまり、しばしまどろんでしまったことを告白しておこう(笑)。
ほどなくコンサートが終わり、主催者・出演者にまじって懇親会の会場へ。そこで中司敬先生、道端奈穂子さんをはじめとする農場の皆さんと歓談することができた。また、大濠公園で「大濠と福岡の子ども達を繋ぐ 向日葵プロジェクト」という素敵なプロジェクトを展開さlている片山雅史さん(画家/芸術工学研究院 教授)とも初めてお目にかかり、楽しい話をうかがうことができた。
懇親会冒頭で中司先生はにこやかに「この場をいかして、お互いどんどん頼みごとができる関係をつくりましょう」とご挨拶。そのノリは、農業機械学・農業生産生態学という専門の枠を超えていて、まさにアート精神の発露。大学にこんな先生もおられたのかと、驚いてしまった。しかし、いただいたイベント資料を後で開き、「大学農場と食育」と題するレジメに、「高い精神性、芸術性を取り込んで食育を創る」「食の作法は自国の文化の理解を深め、異文化の理解も進める」という記述があって、大いに納得した。人とのかかわり、コミュニケーション、信頼関係のなかに食育を位置づけていこうという、中司先生が率いられる附属農像の展開ぶりはものごとの本質をついていて、最近、学内事情にちょとばかし疲れ気味の身にとって、とても新鮮に感じられた。
資料には例えば、「食育の本源 ─命をいただく」ということで、「1. 鶏をと殺し、毛を抜く」「2. 解体し、胸肉ともも肉をはずす」、、、といった学生向け実習「鶏の解体と加工」の模様が紹介されていて、「これ以上の『食』および『命の尊さ』を考えさせることのできる教育『食育』はみあたらないでしょう」という、岡野香先生の直球解説にうなってしまった。懇親会では、畜産研究室職員の道端さんからも「鶏」にまつわる話を聞いていたので尚更だ。
こんな具合に、藤枝さんのお誘いということで気軽な気持ちで参加したコンサートであったが、コンサートはもちろんのこと、附属農場という、「周辺」の組織ならではの伸びやかさとラジカリズムにふれることができ元気をもらった。なにより、「生きもの」に日常接している人びとの顔つきが印象的でとてもよかった。そして、芸術(アート)を多様な関係性を生みだすメディアや触媒として、ごく自然に実践されている農場の皆さんと談論しながら、ふと宮沢賢治の「農民芸術論」を思いだした。農業と芸術の組み合わせは意外でもなんでもなく、「いのち」を媒介とした必然的な結びつきであることにはっと気がついた。
「お互いどんどん頼みごとができる関係をつくりましょう」という中司先生のそそのかしをうけ、今回縁あってご一緒した附属農場の皆さんはもちろんのこと、藤枝さん、藤原さん、片山さん、知院院さんには、これからいろんな相談ごとを持ち込むことになりそうだ。


 *作曲家・藤枝守さん
   →http://www.fujiedamamoru.com/profile_.html
 *九州大学農学部附属農場
   →http://www.farm.kyushu-u.ac.jp/FARM/1913F787-42E2-4F96-BAC8-30D99BEF7E5B.html
 *ひまわりプロジェクト
   →http://himawariproject.web.fc2.com/frame.html