古いまま素のままがいい

目黒・田村・坂口のトリオで、吉原住宅(有)のオフィスを訪問。1時間近く雑談。吉原住宅の吉原勝己さんは、製薬業界の研究者からお父さんが創業された不動産業に思いきって転職、冷泉荘のプロジェクトをはじめ、市内でいくつかのリノベーション・プロジェクトを手がけられてきた。冷泉荘の野田君を発掘された(笑)張本人でもある。じつは、前職に在職されていた折に(10年ほど前か)、僕がコーディネートしていた夏期の起業家セミナーをこっそり受講されていたとのことで、渡る世間、どこでどうつながるかわからない。
さて、印象的だったのは、不動産業界における皮膚感覚的な、しかし重要な変化の兆として、「最近、例えば、古い2階建てアパートに、なるべく手を加えず、素のままで住みたいという、30代そこそこのお客さんが増えている」という吉原さんのお話。リノベーション(大改装)ということでモダンデザインに衣替えさせるのでなく、そのまんまの状態でレトロを楽しむ感性が出現したという話に、久しぶりに「へぇーっ」とうなってしまった。
それってどういうことなんだろう? 「デザインされたものは、決まりすぎていて緊張を強いるからでは」「30代そこそこというのは団塊世代ジュニア、親の影響を受けて昭和歌謡もじつによく知っている連中だ」(以上目黒説)、「かっこ良いデザイナーズマンションを求める志向性と、レトロアパートを求める志向性は重なるのでは」(田村説)と真相究明談義がはずんだ。ふむふむ。
いずれにせよ、団塊世代の経験や感性が子どもの世代に文化遺伝するというのは、仮説としてなかなか楽しいではないか。前に前に「進歩」するばかりが能じゃない。回帰に値する過去や原点があれば、ハードな建物であれ慣習というソフトであれ、そこに立ち戻って新しいライフスタイルをそこから組みたて直せばいいだけの話だ。
こうした微妙な変化をキャッチされる吉原さんの感度は、異業種からの参入ならでは。不動産の「業界」の内部からは出てきづらいものだろう。
じつは、そうした吉原さんの感度に負けじと、この度、目黒・田村・坂口のトリオで、“Kyushu7”という怪しげなユニットを編成することにした。コンセプト・デザイン結社である。模索し変化し続けるという意味で永遠に詳細未定・現在進行形であるが、くれぐれも“Owarai 7”(笑)とならないように気をつけないといけない。