懐かしい時間 ─玖珠そぞろ歩き


きょうは玖珠町の日本童話祭にメルヘン大使として参加した。カミさんと娘が一緒であったが、カミさんは「きょうは大使夫人だわ」ととてもご機嫌であった(笑)。何か志摩町のお土産をということで、福の浦「またいちの塩」の裏山でとれた無農薬の甘夏と清見を携えていった。童話祭の参加はじつに15年ぶりくらいではないかと思う。ということもあって、祭りの雰囲気が15年余りの間にどう変化しているか、確認する楽しみもあった。余談であるが、過日、第58回日本童話祭への正式の案内状をいただいた。その封筒には何と、勤務先の住所と大学名の後に「メルヘン大使 ○○○○様」と書かれていた(笑)。大学内の郵便係ではたぶん「へぇ、これみてみて」と話題になったはずだ。今後、玖珠町から「メルヘン大使」と記した文書が届いた場合、けっして怪しい文書でない旨、担当者にきちんと伝えておかないといけない。
さて、日本童話祭および玖珠町であるが、何ともいえぬ懐かしい時間を一日たっぷりと楽しませていただいた。三島公園で行われた童話祭式でのオープンニング式典では、冒頭部分で「継続は力なり」と大書された文字が披露された。これまでも役場の方々からは、「昔ながらの、アカ抜けしない、手づくり方式でやっとります」との遠慮ぎみの発言を幾度か聞いてきたが、今回の「継続は力なり」には「これでいいんだ! これがいいんだ!」という、自信というかカラッとした開き直りのようなものが感じられた。開き直りの最先兵として(笑)、町長・助役が欠かさず参加する毎回恒例の仮装パレードはというと、今年は町長が「ゲゲゲの鬼太郎」、助役が「ねずみ男」に扮装し、祭式も最後までそのままの姿であった。そして祭式の締めは、「屋根より高い〜♪」で始まる「こいのぼり」と「柱のきずは おととしの 五月五日の〜♪」で始まる「背比べ」を、みんなで歌った。牧歌的な周辺の景色や雰囲気とぴったりの童謡の世界に、しばしタイムスリップしたような感じであった。(とはいうものの、24歳の娘は「背比べ」の歌は初めてであったという。このあたりのギャップはいかんともしがたい)
お昼は他の来賓の方々と一緒に、末廣神社境内の栖鳳楼で、旧森城下町や伐株山、万年山を一望に見渡しながら頂いた。県指定有形文化財にも指定されている栖鳳楼は演出いかんでは周辺の観光資源と一体展開でいかようにも集客可能であると思われ、日隈助役に水を向けてみたところ、「あせって数を集めようとすると建物や雰囲気が荒れるので、あせらずじっくり計画していこうと思うちょります」とさすがの返答が戻ってきた。このあたりの発想に、観光開発に奔走してきたお隣・湯布院町(現由布市)とスロースタイル・玖珠町との路線の違いが隠されている。
昼食の後は、森藩城下町であった本町通りと寺町通りを、久しぶりにゆっくりと散策した。驚いたことに、かつては静けさだけがとりえという感じだった古びた通りに、白壁づくりのストアーや薬局、旅館、洒落たカフェ、蔵を改造したギャラリー等が新たにお目見えし、とても素敵な町並みとなっているではないか。新しい建物が増えているにもかかわらず、まち全体からほのぼのとした懐かしさが伝わってくる、玖珠らしいたたずまいとスローな時間が横溢していて、現代人のストレスを吸い取ってくれそうだ。もちろん、国の助成を入れた町並み整備事業が始まってまだ3年くらいしか経っていないということで、個店のサービスレベルとか洗練度についてはこれからの部分が少なくないように感じられた。しかし、過剰な演出やデコレーションを排した「素朴な町柄」といったものが自然と現れていて、それが得もいわれない魅力として伝わってくる。しかも、あまりおカネをかけることなく時を過ごすことができる。イベントはというと、わらべの館、お寺、店の軒先などいたるところで、民話や紙芝居・腹話術・人形劇・影絵劇・人形ボードヴィルなどが行われ、通りを歩いていると子どもたちのたくさんの靴が入口からはみ出していたり、歓声が聞こえたりと、まさにまち全体が「おとぎ劇場」となっていて、「子どもと夢を!」のメインテーマが無理なく表現され、共感をよんでいたように思う。
この感覚は、恐らく「古いまま素のまま」に対する志向の高まりを教えていただいた先日の吉原勝己さんの指摘とも重なる部分があると思う(http://d.hatena.ne.jp/rakukaidou/20070424)。カッコいいけど心からくつろげないデザインや、お洒落だけどどこかヨソヨソシイまちに、人びとがそろそろ厭きてきたとすると、玖珠のような「飾らない」「素のまんま」のまちがかえって人びとの心に響き、静かなブームを呼び込むことになるかもしれない。インターネットによって人間の感覚が地球大にまで拡張する一方で、それと補完しあうかのように地域文化や「里」への回帰意識が高まるのではないか。オバサン及び20代前半ギャルである同伴家族も「うーん、なんかいいねぇ〜」と何度も繰り返していたので、マーケティングのツボとしてこれは間違いないだろう。「変わらないもの」「変えてはいけないもの」にどれだけのこだわりをもって、まちづくりを行うかがこれから問われていくになろう。そうした意味で、58回も基本のトーンを変えることなく回を重ねてきた「日本童話祭」は、ゲゲゲの鬼太郎にも敗けないお化けイベント(笑)かもしれない。もちろん、帰りしなに買い求めた名物「栗まんぢゅう」も、10個で735円と変わらない価格と美味しさであった。

 *童話の里 玖珠町http://www.town.kusu.oita.jp/
 *日本童話祭 → http://www11.ocn.ne.jp/~kanko/57/top.htm