故郷を話題にしばし語らう

大牟田から来客があり、久しぶりに故郷の話題に接することができた。というか昔のことやこれからの地域づくりについて大いに語りあった。いらしたのは、保健福祉行政に長く粉骨砕身されてきた大戸誠興さんと若き政策企画マンである近藤直史さん。市で現在検討されているある事業についての相談というのがお二人の来訪の目的であった。(後の居酒屋談義には、大牟田市から福岡県自治センターに出向している九大OBの中島君も合流)
大牟田は、マスコミが「夕張の次は大牟田か」といった切り口から取り上げることもあって、全国的にもすっかり有名になってしまった。そして畳みかけるように、このところ社会的な事件やら職員採用をめぐる「不祥事」(僕はマスコミが騒ぐほどのことはないと思っている)が相次ぎ、負の意識循環に陥ってはいないかと陰ながら気になっていたところであった。
いろいろお話を伺うなかで、本題の新事業については、折角の予算をお役所的な委員会風の仕切りや、既存事業への細切れ配分をやめて、明快なコンセプトのもとに、大牟田の新しい芽を引き出し、その芽を伸ばして行く人を育てるために大胆に使ぶべきではという意見を述べさせていただいた。大牟田は、まちがいなく全国でも有数の、厚生労働省も注目する福祉実践のマチだ。また、知る人は少ないが、福祉分野での民間ベースの現場交流を重ねてきた、日本におけるデンマーク交流の要となっている地域でもある。しかし正直言って、現場に密着した先進的かつ地道な取り組みが、「見える」かたちで市民や全国の人びとに十分発信しきれていないというもどかしさが常につきまとっていたように思う。
酒の力も借りながら談論風発するなかで、大牟田のもつ潜在的な力を目に見えるかたちにしていくためには「デザイン」の視点が不可欠であるとの確信をもった。モノの意匠という意味でのハード次元でのデザインでなく、人びとのハートに働きかけ、地域社会の潜在力を引き出していくソーシャル・デザインだ。そのためには、負の意識循環をプラスに転換させ、ソフトパワーとして表に出していくきっかけが欲しい。もちろんそれがわが身に照らしても、言うは易し行うは難しであることは重々承知である。それを知りつつも、この際思いきって「どーんと失敗しよう!」というスローガンで行きましょうよと、自分自身を勇気づける意味を含め言ってしまうところが目出度いところだ(笑)。あるいは、ここは一つ開き直って「第二の夕張候補・大牟田」を全面に出し、世間の関心や協力・支援を巻き込んで行きましょや、とも。ありがたや酒の力である。
故郷から遠ざかってしまった男をわざわざ訪ねてきて下さった大戸さんの厚誼には感謝しかない。学生の頃から、かれころ30年のおつき合いである。定年まであと4年だそうだ。それもあってか、残りの時間でしっかり若い人を育てておきたいという大戸さんの熱いの眼差しを感じながらの、とても旨い酒となった。志をもった人たちとの会話を、「福祉・まち・ひと・仕事」という文脈のなかで、具体的な事業や新しい関係性へとどうつなげていくか ─。大戸さんには「福祉と音楽とデザインと」といったテーマを提案した。大牟田には、全日本吹奏楽コンクールで銀賞7回・銅賞3回という実績をもつ市民吹奏楽大牟田奏友会もある。実は大戸さんはその副理事長として、奏友会の活動を牽引されてきた方でもある。
いずれにせよ、今日の話は“Kyushu 7”の仲間に報告し、じっくり相談することにしよう。また、“7”周辺の若い人たちの力を借りれば、年代を超え、遊びやファンタジーの要素をたっぷり含んだ素敵な展開を提案できそうな気がする。