過激で素敵なアーティスト・八谷和彦

九州大学芸術工学部公開講座「アート・オープン・カフェ」で、メディアアーティスト・八谷和彦さんの話を聞いた。タイトルは「遊ぶ機械」。会場はイムズ。八谷さんは九州芸術工科大学の卒業生で41歳、メールソフト「ポストペット(Post Pet)」の開発者としても知られるアーティストだ。大組織に属することなくインデペンデントに、もっともクリエイティブな仕事をしているアーティストだ。芸工大の卒業生のなかで出色だと僕は思っている。会うのは3年ぶりぐらいだろうか。
F市の佐々木さんとも話したけれど、彼のプレゼンテーションのうまさというかサービス精神には、ほんと感心してしまった。ゆっくりとしたペースで楽しい映像を交えながら進めていく独特のリズムがある。
彼の仕事の進め方は論理的で明快だ。技術、デザイン、美、それぞれの接点部分というか“スキ間”部分を狙うこと。例えば、2人の視点を入れ抱えるとどうなるかを体験する「視聴覚交換マシン」は、アートと技術が交差する異次元体験に誘う不思議な世界。また、クルマどうしで“ありがとう”と挨拶しあう「サンクステイル」という、心なごむコミュニケーション・グッズは、彼に言わせるとアートとデザインのスキ間の作品だそうだ。単なる、アート系の自己表現作品でなく、しっかりとクライアント(お客)を想定し、商品化までこぎつける。道路でのイライラ防止という、しっかりとしたニーズというか市場性をにらんだ、デザイナーとしての仕事である。
サンクステイル

そして、アートとデザインと技術の交わる究極とスキ間事業として、彼は2003年から取り組んでいる「オープンスカイ」というワクワクするプロジェクトを紹介してくれた。最終的には、一人乗りのジェットエンジンがついた小型飛行機をつくるというプロジェクだ。イラク戦争で飛行機が殺人兵器として使われるのを目の当たりにし、「人びとに希望を感じさせる素敵な飛行機」を代案として自分でつくってみせるしかない、と思い立ったのが始まりだという。その後、日本で民間用航空機を一機も作っていない事実を知ったとも、「だったら、それに挑むのがアーティストの存在理由でないか」と挑戦心に火がついたという。根拠なき自信! じつは前回会ったときは、まだフェーズ1の段階で、模型やラジコンによる検証をやっていた段階であったように記憶する。それが、人が乗れる実機を既に飛ばし、ゴムで牽引してグライダーのように飛ばす試験飛行を繰り返すまでになった。講演では、その飛行機から映した素敵な映像も紹介された。やがてジェット・エンジンを積んだ試験飛行も始まるというから凄い。
八谷さんの行動哲学を聞くにつけ、現代人が失ってしまったものの大切さを問い返されているように思った。彼を行為に駆り立てているのは、「ロマンスとエンジニアリングがあれば人は空を飛べる」という信念をだ。また、技術・デザイン・美の探求は、彼にとってそれは真・善・美という人間の本性そのものの探求にほかならないという。真善美の三角形を意識した仕事をするようになってからは、余計なストレスと無縁の時間を過ごせるようになったという。それと関連して、コンサルティング会社のサラリーマンからアーティストに転じた時のエピソードが面白かった。どうするか悩んだ時に、サラリーマンとして知り合った人の名刺と、アートの現場で知り合った人の名刺を比べてみたのだそうだ。すると、アートの世界のほうが好きな人が圧倒的に多かったからアーティストの道を選んだのだという。最終的にクライアントの言うことを聞かざるをえないコンサルタントから、自分じしんがクライアントでもあるアーティスの世界へ・・・・・
カフェ終了後は、「めんや」にて八谷・佐々木・坂口で酒席談義。もちろん、オープンスカイよろしく、話は多方面に飛びまくり(笑)、大いに盛り上がったことは言うまでもない。大学人のはしくれとしては、とりわけ、「大学には要素技術はいろいろあっても、それを統合して実際に飛べる飛行機をつくりあげる技術や人間がいないのはちょと寂しい」という指摘は耳に痛かった。また、深くうなずいたのは、大学時代にやっていたという演劇の経験がチームワークで仕事をすすめていく上での原体験としてしっかり役立っているという話。
そして、3月に予定しているシンポジウムに、パネリストとして参加してくれることになりそうだ。共鳴・共振できる人間との会話は楽しい。
 作品「M-02」(八谷さんのHPより)

八谷和彦さんのサイト→ http://www.petworks.co.jp/~hachiya/Hachiya_Kazuhiko/Information.html